「黒蜥蜴」観劇【感想】
※Twitterに呟いたものをまとめて手を加えた記事になります。
噂には聞いていたが、素晴らしく濃厚で耽美な3時間40分だった。
そして3幕もあるお芝居を観るのは初めてな私。
独特な世界観と空気感がマッチした役者さん達は、さもその時代に生きているかのようだった。
実に素敵な時間だった。
簡単なあらすじ
世界を股にかける女盗賊「黒蜥蜴」は何よりも美しいものをこよなく愛していた。
今回のお目当は宝石商の宝石とその娘。
緑川夫人に変装した黒蜥蜴は、護衛を頼まれたという名探偵・明智小五郎と娘が眠る部屋の隣で、会話という名の駆け引きを楽しむ。
そして犯行予定時刻の0時。
黒蜥蜴の予告通り宝石と娘は見事盗まれてしまう…。
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女盗賊と名探偵の禁断の恋模様を耽美な世界観で表現された作品。
どことなく乱歩を読んでいる時の静寂を、そのままお芝居にしたような空気感だった気がする。
美しいものはより醜く、醜いものはより美しい世界。
「生は邪であり死こそ善」のようなことを甘美な台詞で各々が語るようなお芝居だったのだけれど、その世界観にうっとりして、どっぷりと浸かってしまった。
個人的に、お芝居の中でその人が取った行動は次に繋がる予兆であり伏線であると思っているので、洗練された様式美にロマンスを感じていたのだが、後ろの席に座っていた人達が「あそこで何であんな事してるのかしらね? カットしちゃえばいいのに!」なんて言っていて、人によって感じ方は様々らしい。
黒蜥蜴は今回の上演が最後と聞いていたので、「絶対に観に行くぞ!」と意気込んで観に行ったのだが、本当に良かった。
けれど客が舞台慣れしてない上に、ほとんどBGMなしの静寂な世界だったので思う所は色々あった。
と、いうか始まる前に咳やくしゃみも諸注意に入っていて、会場が思わずどよめいていたのを覚えている。
そしてダメだダメだと客の神経がそっちに集中してしまっているのか、かえって逆効果なのでは?というくらいに咳や物音が目立っていた。
まぁ、気持ちは分からないでもない。
主要キャストである木村彰吾さんと中島歩さんは、まるで漫画の世界から抜け出してきたかのようなスタイルの良さで、とても素敵な声も持っていて耽美なこの世界にぴったりであった。
團遥香さんも可憐さの中に棘を持っていて魅力的なおかっぱ頭の女性だったし、美輪明宏さんはそこに在るだけで絵になっていた。
特に最後美輪さんが白いドレスを着て登場し、スポットライトを浴びた瞬間の美しさと言ったらない。
※以下、ネタバレ含む感想※
最後、「本当の宝石はこの世から消えてしまった」と愛する人を失った悲しみに暮れる明智小五郎を見て、その時、黒蜥蜴は勝利したのだな、と思った。
黒蜥蜴の心の世界では明智が泥棒で、黒蜥蜴が探偵だった。何故なら黒蜥蜴は明智小五郎に心を盗まれた。つまり明智に恋をしてしまったからだ。
死んだと思っていた明智が生きていたことに喜び、自ら命を絶った黒蜥蜴。
そんな彼女を想い、悲しむ明智の心は黒蜥蜴への想いでいっぱいだったに違いない。
そういう意味では最後の最後に、黒蜥蜴は見事愛する人の心を盗んだのだ。