観劇こそ我が人生

~観劇備忘録~

「BIRDMAN~空の果てにあるもの・ライト兄弟~」観劇【感想】

f:id:ppboo013974:20151223175811j:plain

 

歴史上の人物をテーマに、各偉人の史実と童話を掛け合わせた新しい物語と音楽のミュージカル。「コードシリーズ」最終章。

そして、外部での活躍も目をみはるミュージカルクリエイター浅井さやか氏が主宰するOne On One2年振りの劇場公演ということで、この劇団が大好きな私はワクワクした気持ちで観に行ってきました。

 

簡単なあらすじ

1903年に世界で初めて有人動力飛行を成功させたウィルバー・ライトとオービル・ライト。
しかし、成功を収めたライト兄弟に対して、社会は祝福どころか反発を見せた。
飛行技術に関する特許取得後も、彼らを崇めるどころか兵器としてその技術だけが注目されたり、特許を自分のものにしようとする人間や、その技術を真似て新しい飛行機を開発する者が後を絶たなかった。
初飛行を成功させ、夢を叶えたはずの2人に訪れたのは栄光の日々ではなく苦悩の日々であった。
兄ウィルバーはそれでも必死に飛行技術の権利を巡って毎日のように裁判で戦った。
そして、45歳になった兄ウィルバーはとうとうチフス熱に犯されて死の淵を彷徨うことになる。
そんな彼は、夢の中でオズの国に降り立った。
そこで彼は自分の家に帰りたいドロシー、知恵のないカカシ、心をなくしたブリキ、勇気がないライオンと出会う。
そして、ドロシー達と一緒に行動する弟と良く似た青年の姿にウィルバーは気付く——。
 
 
観る前は史実であるライト兄弟のお話とファンタジーであるオズの魔法使いをどう掛け合わせるのか全く想像がつかなかった。
でも、観終わってみるとまるでお互いがお互いの為にあるかのように作品の中で二つの世界観が上手く混ざり合っていて、浅井さやかというクリエイターの評価がこの作品でまた私の中で大きく上がった。
 
今回は全体的にアップテンポの曲が多く、風を切るように心地良い曲たちが少数精鋭歌うま集団によって作品をぐんぐん盛り上げていた。
 
そして、One作品ではほぼ準レギュラーである内藤大希の切なくも深みのあるバラードで程よく話の緩急が付けられていたと思う。
 
芝居の方は主演である鯨井康介が成功と後悔の苦悩を巧に表現していた。
 
兄ウィルバー役である鯨井康介と弟オービル役である内藤大希は同じ年なのだが、しっかりものの兄と自由奔放な弟という4歳差の違和感をまるで本物の兄弟のような仲睦まじい姿で拭っていて、とても同じ年には見えなかった。
 
 

個々の感想

ウィルバー・ライト/鯨井康介
ミュージカル精鋭集団なので仕方がないとは思うのだが、主演なのに歌唱力が他と比べると足りないのが気になった。
しかし、歌唱パートが少なかったので演技要員だったのかもしれない。
持ち前のスタイルの良さもあり、しっかり者の理想の兄像はこんな感じなのだろうか、と思うほど包容力のある役柄だったので、苦悩して衰退していく姿のギャップもまた素晴らしかった。鯨井ウィルのような兄さんが欲しいと思う程に。
あと45歳設定くたびれ兄の色気が半端じゃなかった。ご馳走様でした。
 
オービル・ライト/内藤大希
最近メキメキと歌唱力をつけている彼だが、今回の公演でまた更に歌が上手くなったなという印象。
そして天性故の愛くるしさとクルクルと変わる表情は弟気質を一段と高めていて、ピッタリの配役だった。ズルい。
純粋無垢な演技はいつもこちらを惹きつけてくれるし、この劇団の雰囲気にとても合っているので、Oneが新しい作品を作る際に彼が出るなら彼を目当てに観に行きたいくらいだ。
 
キャサリン・ライトと南の良い魔女/田宮華苗
優しい瞳で兄たちを見守る姿がぴったりな、可憐さとひたむきさを持った人。
笑顔がとても素敵だなといつも思うのだけれど、伸びやかな歌声は彼女の笑顔にぴったりだし、妹として兄たちの後を追い掛ける可愛らしい姿は必見である。
と、思ったら南の良い魔女ではゲラを披露するなどまだまだ引き出しがありそう。
大人の女性役をみたことがないのでいつか見てみたい。
たみゃーさん可愛いよたみゃーさん。
 
スーザン・ライトと西の悪い魔女/佐野まゆ香
安定感のあるしっかりとした歌声が優しく息子たちを導く母親役に合っていた彼女。
西の悪い魔女のセクシーダンスも迫力満載で素晴らしかった。
この西の悪い魔女の曲が中々かっこいい曲だったので、そこに彼女のパワフルボイスが重なることでかっこよさが増し増しになっていた。
ギャグからシリアスまで巧みに自分を使いこなしている人。
 
ドロシー/岡村さやか
今までに見たことがない強気な少女の役で初めは驚いた(しかもツンデレ)
ぴょこんと跳ねたおさげが可愛らしいビジュアルで、でも芯の通った声から出る台詞は辛辣。でも正論。
いつも綺麗な曲を透き通るような歌声で歌い上げる印象だったので、アップテンポな曲でぶしつけな態度を取りながら「ただあたしは家に帰りたいの!そんだけ!」と歌い上げる岡村さんはある意味で新鮮であった。
ラップも面白かったです。チュクチュン(not CLUB SEVEN)
 
ライオン/蔵重美恵
大体ズルくて可愛らしい人。今回のライオンもビジュアルからズルかった。
器用に何でもやるなあと思いつつ全部蔵重さんらしい役に替えてしまうので、臆病なライオンなんだけどちょっと面白くて。
でも立ち止まるウィルバーを迎えに行ってあげる優しさがライオンらしかった。
(迎えに行ったのはドロシーが怖かったからだけど)
あと突然身体を張られるととてもヒヤヒヤするので身体は大事に。
 
カカシ/千田阿紗子
少年と少女の中間などちらとも言えない役がよく似合うなといつも思う千田さん。
脳みそがないカカシの愛くるしさが前面に出てるのもあり、考えないからこそ素直な台詞をサラッという所は違和感がなく、素敵に不思議な存在になっていた。
クシャッと潰れる笑顔が好き。
 
ブリキ/妻木泰二
私が今まで観た事あるのは優しい役だけだったので、棘のある役を見るのはお初な気がする。
今回改めて喋る声も歌声も両方個性的な素敵な人なんだなと知ることが出来た。
ブリキの動きは愛嬌のある感じで、心ないことを言うちょっとムカつくブリキ役はぴったりだった。
ブリキの歌は主題歌に次いで二番目に好き。
 
ストーリーテラー/浅井さやか
小劇場の面白いところは作家さんもたまに舞台に上がるところだなとよく思う。
演者として出るのは久しぶりとのことだったが、歌声はとても綺麗で、冷たく現実を言い放つストーリーテラーの怪しい雰囲気を醸し出していた。
青メッシュの髪型が似合っていた。
 
オズとオットー・リリエンタール/上野聖太
もうちょっと笑いのシーンは振り切れてたらいいのになと思ったけれど、オズという胡散くさい役はこれくらいの胡散くささがある方がオズらしいのかもしれない。
オットーとして語る際も、後悔で腑抜けになった男の雰囲気が失礼ながら似合っていた。
向井理みたいな声してるよね、この人。
 
 
※以下ネタバレ含む感想※
 
 
夢を叶えた先には何が待っているのか?を哲学的にこちらに語りかけてくる芝居だった。
夢が夢である内は純粋で綺麗な宝物みたいにキラキラと輝く美しいものだけれど、その夢が叶う時が人生のクライマックス。正に幸せの絶頂期。後は下っていくだけ。
 
夢を見なければ、夢を追い掛けなければ味わうこともなかったであろう苦しみや悲しみを「何も考えなければ(考えられないカカシ)」、「何も思わなければ(想えないブリキ)」、「諦めていれば(臆病なライオン)」とカカシ達の劣等感と兄ウィルバーの後悔の気持ちをシンクロさせていて上手いなあと。
 
そんな夢を叶えて後悔した兄ウィルバーの前に夢を追い掛ける前の、チフス熱で倒れた25歳の時の弟オービルが現れるのだけれど、ウィルバーが追い掛けていた夢は空を飛ぶこと。
けれど、オービルが追い掛けていた本当の夢は兄と一緒に並んで歩くことだった。
「兄さんと考えたい(脳みそが欲しいカカシ)」、「兄さんと気持ちをわかちあいたい(心が欲しいブリキ)」、「兄さんとの夢を諦めたくない(勇気が欲しいライオン)」とカカシ達の叶えたい願いがオービルの叶えたい夢とシンクロしていて、お互いを埋め合うようにして生きてきた似た者同士の兄弟の奥深さみたいなものを感じた。
 
オービルに「兄さんと一緒に空を飛びたい!」なんて言われたらウィルバーは「夢は諦めろ」なんて言えないし、ウィルバーはオービルの背中を押すしか出来なかったよなああそこは、と。
作中のウィルバーの台詞にもあるけれど、本当に純粋無垢なオービルはズルい。
 
でもウィルバーが死んだ後、軍事利用される飛行機や戦争を経験しながら老いていったオービルの最後の台詞「兄さん、僕は…」の後はきっと、「僕は後悔している」って台詞に続いているんじゃないかなと。
兄の死後、一人で兄が背負ってきた色々なものを見てオービルが何を感じたのかは分からないが、史実ではオービルが手紙で自分が動向飛行を発明したことを後悔しているという記述があるそう。
けれど、そうやって歴史という軌跡は失敗と成功の中で積み上げられていく。
 
だからといって夢を追いかけるのは悪いことなのか、と言われたらそれは違くて、夢を追いかける時の希望に満ち溢れた気持ちはものにも代えがたいのだということ。
ただ、どうしても大人になるとその夢を使ってお金や栄光を手に入れようとする野心ばかりが心を占拠して純粋に夢を見ることが出来なくなってしまう。
 
じゃあ大人になったら、夢を見ることはいけないことなんだろうか?
そこは、風見鶏のように仲間の行くべき道を示してくれるドロシーが言ってくれた。
 
「私はただ家に帰りたいの。それ以外に理由なんている?」
 
夢を追い掛けることに理由なんていらない。
例えその先にどんなことが待っていようとも、突き進むから夢は叶う。
そして夢を叶えたという確かな達成感を得ることが出来れば、人はまた次のステージに進むことができる。
だから夢を叶えてお金や名誉などの見返りを期待することは何も悪いことではなく、それは次のステージに進むための燃料。野心なのだ。
少年よ、大志を抱け。
立ち止まらずいつまでも。
 
…ということをこの作品は語りかけてきてるのかなあと観ながら感じていました。
この劇団の作品は毎回心地が良いだけではなく、何処か現実世界のことわりを針でつついてくるような、身に覚えのある苦みを思い出させてくれるのでいつも色々と考えさせられます。
 
最後、夢を見上げる弟の横顔を見つめる兄の目はとても素敵で、兄との夢に夢を見る弟の顔はとても希望に満ち溢れているような、そんな表情でした。
 
このキャスティングでこの作品を観ることが出来て、純粋に嬉しかった。
 
 

One on One 26th note 
コードシリーズ 「BIRDMAN~空の果てにあるもの・ライト兄弟~」
シアターグリーン BIG TREE THEATER 
2015年12月17日(木)~23日(水祝)

作・演出・音楽:浅井さやか(演奏)はんだすなお

広告を非表示にする