観劇こそ我が人生

~観劇備忘録~

ミュージカル「グランドホテル」GREENチーム.ver 【感想】

f:id:ppboo013974:20160417114515j:plain

 

「グランドホテル」GREENチーム.verを観劇してきました。
2015年に上演された「タイタニック」の盛況振りが記憶に新しいトム・サザーランド氏が、1989年にトミー・チューンによって演出されたものを新たな色に塗り替えたミュージカル。

「人生は巡る」をテーマにホテルを例えば国、例えば人生に置き換えて、様々な人種や思想が入り乱れる人生の1シーンを切り取ったような群集劇。
始まりと終わりのシーンは中々衝撃的なものではあったけれど、これぞ人に伝える為の演劇というような終わり方だった。

REDを観る機会がなかったので、GREENとの演出や結末の違いを比較出来なかったのは残念だが、現代に通ずる社会情勢に対するメッセージ性を含んだGREENチームの、決して華やかではないがリアリティのある結末は中々好みの演出だった。
ちなみに、GREENはバッドエンドで、REDはハッピーエンドなのだそうだ。

※以下、ネタバレ注意※

簡単なあらすじ

ベルリンにある超一流ホテル「グランドホテル」。
そこはいつも変わらない。
今日も誰かが来て、誰かが去っていく。その繰り返し。

踊りへの情熱と自信を失った、かつて一世を風靡したプリマバレリーナ。
重い病を患い、貯金を全て使い残りの人生を楽しもうとする会計士。
傾きかけた繊維工場で解雇される寸前まで追い詰められた娘婿社長。
ハリウッドスターになることを夢見る若くて可愛らしいタイピスト。
借金の取り立てから逃げ続けるハンサムで気さくな貴族。

様々な人種が入り乱れるホテルで、今日もそれぞれの人生は流れていく…。

  

GREENチームは、ナチスドイツ党歌の「旗を高く揚げよ」から始まり、最後はアドルフ・ヒトラーの首相就任演説の音声が流れて終わる、というとても演劇的な演出だった。
時代という逆らえない波が冒頭からまるで運命だとでも言うように用意されており、ただ人は時代という荒波に飲まれながら、様々な思いやセクシャルを抱えて生きる。ある意味で人生をホテル自体が体現しているようだった。

そして最後、ヒトラーの演説中にオットーとフレムシェン、グラシンスカヤとラファエラは暴行され、暴行されたオットー達は、自分の赤ん坊を抱いたエリックにコートや帽子をかけながらホテルの外へと出て彼の姿を見送り、エリックはホテルから去っていく。
公式のアフタートークのレポ読む限り、幸せになるのはホテルを去って行く方で、新しい命を抱えてホテルを去っていくエリックは、きっとオットー達にとっての未来への希望なのだと知って、時代の片鱗を感じた。

公式サイトでは上記のこと以外にも、アフタートークの文字起こしレポートが掲載されている。
サザーランド氏の演出変更指示の文章が全文掲載されていたり、とてもありがたい。

musical-grandhotel.com

  

宮原浩暢さんのガイゲルン男爵は、背も高いし昔の映画俳優のような色気を持った色男だし、歌はとっても上手いし、声は良いしとても素敵だった。これが初舞台だというのだから凄い。
圧倒的な声量と歌唱力による歌い上げは素晴らしく、彼が扮する男爵のナンバーである「Love Can't Happen」は彼のお蔭で劇中で一番好きな楽曲になった。


サザーランド氏は藤岡さんをファンファーレ的に使うのが気に入ったのだろうか。
「タイタニック」の時と同様、未来への希望の光を包んだ楽曲に乗った藤岡さんの歌声は、最早一人讃美歌。
1人だけれど10人分の聖なる力が宿っていそうな神々しさだった。

 

舞台版のフレムシェンは、オットーの資金が尽きたら本当に彼を見捨てかねないようなフレムシェンだった。
自分の夢やお金のことも含めて野心が異常に強かった。
劇中では持ち前の美貌で男爵やプラウジングの誘いにOKするのだが、いかんせん昆ちゃんだとロリコンが過ぎて、もうどの男を相手にしていも「それ犯罪なんじゃ…?」というスリルが満載で、色んな意味でとてもハラハラした。

 

「愛と死」を象徴するスペシャルダンサー湖月わたるさんを見て、何処のトート様だろう?と思った人は少なくなかったに違いない。
立っているだけで異様な存在感を放つ湖月さんの男爵との最後のダンスは美しかった。

 

グルシンスカヤな安寿ミラさんは役にハマり過ぎていて素敵だった…。
儚さと悲しみを携えたグルシンスカヤ雰囲気に、若き男爵がすぅ、と吸い込まれていく光景は正に映画そのものだった。
そして、美しいが老いで自信を失くしすグルシンスカヤに献身的に寄り添うラファエラのまさかの百合要素にも興奮。
若き日のグルシンスカヤとラファエラのスピンオフ話が欲しい。

 

エリックの上司役の友石さんの演技が中々好みのタイプでした。
調べてみたら元劇団四季のシンバ役だったそうで。なるほど言われてみれば。

 

大山くんは26歳差の戸井さんに負けない力で社長の弁護士を全うしていた。
ダンスシーンでは大きな身体でダイナミックにキレキレなダンスを披露。

 

戸井さんの社長はどんどん勢いの空気が抜けて小さくなっていく感じがして、最終的には一時の快楽で一旦、事を忘れようとして、過ちを犯してしまって。
何というかもう初めから確実に終わりへと一人向かっていく役だったな、と。
あと色々言うと、戸井さんにはもっとフィットする細身のスーツを着て欲しかったけど工場の娘婿社長じゃあしょうがない。
しかし、シャツのボタン外すと色気が溢れ出てくるのでやめてほしいです好きです。

 

中川さんのオットーは、常に猫背で声が上ずっていて、頼りない感じの会計士。
死と向かい合いながらも精いっぱい生きようとしている必死さと健気さが印象的。
そして天界にまで突き抜けるような歌声は、まるで喉に羽根が生えていてもおかしくない軽やかさ。
オットーと男爵が歌い踊る「The Grand CharlestonWe’ll Take A Glass Together」も好きな一曲だ。

 

いずれも登場人物達への余韻を残してくれる終わり方だったグランドホテル。
オットーとフレムシェンは無事にパリに辿りつくことが出来たのか?
フレムシェンは赤ちゃんを産むことが出来たのか?
男爵が居ない駅に着いたグルシンスカヤは泣き崩れてしまったのだろうか?
ラファエラは死ぬまでグルシンスカヤに想いを伝えることはなかったのだろうか?
そんなアフターストーリーをついつい考えてしまいたくなる。
そしてそれが例え不幸な結末であったとしても、幸せであれと祈ってしまう。

悲観的な結末だけれど、その先には希望という未来を見つめていたGREENチーム。


変化する時代を生きる人々の1シーンを、まるで箱庭の主のような感覚で客席から眺め、じわじわと感性と思想を刺激されるような作品だった。

 

 

「グランドホテル」
2016年4月9日(土)~24日(日)@赤坂ACTシアター
2016年4月27日(水)28日(木)@愛知県芸術劇場大ホール
2016年5月5日(木・祝)~8日(日)@梅田芸術劇場メインホール

〈GREEN team〉
中川晃教/宮原浩暢/戸井勝海/昆夏美/藤岡正明/味方良介/木内健人/大山真志/金すんら/友石竜也/青山航士/杉尾真/新井俊一/真瀬はるか/吉田玲菜/天野朋子/岡本華奈/湖月わたる(スペシャルダンサー)/春野寿美礼/光枝明彦/安寿ミラ

 

脚本:ルーサー・ディヴィス
作詞・作曲:ロバート・ライト&ジョージ・フォレスト
追加作詞・作曲:モーリー・イェストン
演出:トム・サザーランド
振付:リー・プラウド
音楽監督:マイケル・ブラッドリー
翻訳・訳詞:市川洋二郎