観劇こそ我が人生

~観劇備忘録~

「BENT」【感想】

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佐々木蔵之介さん主演の「BENT」を観劇してきました。
以前見たグランドホテルで、ドイツ関連の話に興味を持った矢先にこの公演の情報を知ったので、軽率にポチッとチケットを購入。

kngekigurashi.hatenablog.com


シンプルな舞台セットと洗練された演出。

BGMはほぼ皆無の状態で、否が応でも役者の演技と役者の発する言葉に集中せざるを得ない状況下で繰り広げられる至高の純愛劇。
結末が分かっていても先を見るのが怖かった舞台は多分、初めてだったと思う。

※以下、ネタバレ注意※

 

簡単なあらすじ

ドイツ、ベルリン。
1934年6月30日未明。
のちに「長い剣の夜」と呼ばれるようになるナチ党が行った突撃隊への粛清事件。
ヒトラーの右腕であった突撃隊隊長エルンスト・レームを含む突撃隊幹部、並びに反ナチスの有識者達が法的手続きを経ることなく、反逆の罪で処刑された。
レーム粛清後、レーム自身が同性愛者だったのも影響してか突撃隊に取って代わった親衛隊によって、同性愛者の取り締まりは強化されるようになった。

そんなことが行われているとは露知らず、マックスはベルリンのアパートで、ダンサーである恋人のルディと暮らしながら人を騙したり麻薬の売買に手を出したりして日々の銭を稼ぎながら、その日暮らしの生活を楽しんでいた。

ある晩、いつものようにルディが働くママ・グレタのゲイクラブで泥酔していたマックスは男達と乱痴気騒ぎを起こした後、若くハンサムな男・ウルフを家に連れ帰り一夜を共にする。
だが、最悪なことに、ウルフは突撃隊幹部のボーイフレンドだったのだ。
その男と一晩遊んだだけのマックスとルディは当然関係者とみなされ、ゲシュタポに追われるハメになる。
ウルフの居場所をゲシュタポに売ったのはグレタだった。
グレタから金を受け取ったマックスは、ルディと共に逃亡生活を始める。

逃亡生活を暫く続けていたものの、あと一歩という所でとうとう捕まってしまったマックスは、強制収容所に向かう列車の道中で、恋人のルディを見殺しにしてしまう。
自分が生き延びる為にはそうするしかなかった。

収容所でユダヤ人は胸に黄色の星、政治犯には赤の三角、犯罪者には緑の三角、そしてゲイにはピンクの三角をつけることになっている。
ピンクの三角は黄色の星よりも下で、一番酷い扱いを受けていた。
マックスはそこで、列車の中で生き延びる方法を教えてくれた男・ホルストと再会する。
ホルストはピンクの三角を付けていた。

お互いの身の上話をきっかけに、自分の作業場にホルストを呼んだマックス。
彼と共に1日中、ひたすら大きな岩を一個ずつ運び、それを元の場所に戻すという単純で無意味な作業を繰り返す。
話してはいけない。止まってはいけない。近付いてもいけない。
彼らに人間らしい行動をとることをここではなにひとつ許さなかった。
自ら死ぬことさえも。

そんな精神が崩壊しそうな作業場に呼ばれたことにホルストは怒りを覚えたが、次第に二人は看守にバレないよう他愛もない言葉を交わすようになる。
そして、段々とそれは好意に変わっていった。
2時間おきに3分間だけある休憩中。彼らは気をつけの姿勢のまま、愛を育んだ。

「いつかここから出られたらベルリンに戻ろう。二人で」

そう夢見て、永遠に終わることのない作業を繰り返しながらも生きる喜びを掴み始めた二人だったが…。

 

感想

重い。とにかくめっちゃ重い。

テーマがテーマだけに分かってはいたものの、最初から最後まで圧倒されっぱなしだった。
芝居を観た後に重い気持ちを家にまで持ち帰ったのはいつ振りだろう…。
泣きはしなかったけれど、シンプル過ぎる演出と役者の演技にはとにかく無駄がなく、「しんどいofしんどいしか言葉が出てこねぇ…」状態だった終演後の私。
伊達に観劇する前に感想サイトであらすじだけを読んで涙ぐんではいない…。

1幕が終わった後に「まだ終わらないの?もう辛いからこれ以上見たくない…」って本気で思ったのは初めてだった。
だからと言って本当に嫌だった訳ではなく、演劇的強さと内容のインパクトが凄すぎて思わず目を覆いたくなるくらいに刺激が強かったのだ。
とにかく作品としては素晴らしいものだった。
ただ、ドイツ政権の非道さやオープンなホモセクシャルの世界などなど、見る人によっては辛いところもあるので、未成年は大人になってから観た方がいいかもしれない(序盤から全裸の男の人とかも出てくるし)


ハンマーひと振りで一発殴られて死ぬ程度の衝撃なら、そこまでしんどいとは思わないのだけれど、BENTは、握り拳で何回も何百回も死ぬまで相手を殴り続けているのを見せられているような舞台だったので、精神的にきつい話だった。
けれど、生で演劇を見るってこういうことなんだと、同時に思い知らされた。
マックスとホルストの言葉だけじゃない性的なやり取りなんかは、特に演劇だからこそ出来るものだ。

佐々木蔵之介さんのマックスは甘いフェイスに甘い声で、常に彼の周りには人が絶えなかったんだろうと思わせるようなマックスだった。
し、相手役の北村有起哉さんはほっそりとした見た目とは裏腹に、低い声でぶっきらぼう。それがまた優しいホルストに拍車をかけていて心地が良かった。
シビアな空間で、そんな2人のコミカルなやり取りも見所のひとつ。
それから観た後に知ったのだけど、北村さんはBENTの為に1年かけて10kgも体重を落としたのだとか。
そんな2人、劇中では丸坊主。1幕で佐々木さんはウィッグを被っている。
本物の髪の毛で作ったウィッグなのか、言われなければカツラを被っているようには見えなかった。

主演の2人が最高だったのはもちろんだったのだけど、中島歩くんも良い味が出てていて良かった。
黒蜥蜴でヒモ男な美青年役をやっている姿しか見たことがなかったので、こんなに喋れるのか!っていうのと、喋り方が可愛かった。

それから印象的だったのは、最後に二人の前に出てきた士官。
寂れた世界観の中で、一人だけ良い服を身に纏って煙草を吸っている姿の嫌味具合は、中々。
けれども、後ろに撫でつけた黒髪と眼鏡と黒の軍服というのは、どうしてこうもフェチズムがくすぐられるのか。
ナチス親衛隊の軍服は悔しい程にかっこいい。悔しい。

 

結末のネタバレをするが、ホルストが撃たれた後、マックスはホルストの死体を片付けさせられる。
その最中にサイレンが鳴り、マックスはホルストの死体を抱いたまま、気を付けの姿勢で3分間休憩しながらこう言う。

「俺がそばにいる…。もう冷たい、悲しい思いなんてさせない。俺が抱きしめているんだから。」

これは本作のフライヤーに書かれている台詞だ。
この作品が伝えたいことはきっと全てここに詰まっているのだろうなと思った。

今まで自分を贔屓にして恋人のことを見捨ててきたマックスは、ホルストの死によって自分の苦しい生き方に疑問を持つ。

愛する人を死体置き場に置いて、このまま自分だけ生きていて本当にいいのか?

人を愛することを信じ、認めたマックスは最後、星のついた囚人服を脱ぎ捨て、絶対に着たくないとホルストに言い続けていたホルストのピンクの三角が付いた囚人服を脱がして羽織り、自らホルストの元へと向かう。
ホルストの愛が今まで頑なに愛を拒んでいたマックスの心を揺り動かす様は、正に純愛。
人を愛するという行為のどこが悪いのか?
過酷な時代の中で、心を落ち着かせて人を愛することが出来ないホモセクシャルの心の痛みと叫びが伝わってくるような、そんな心にも演劇的にも刺激される物語だった。

 

 

 「BENT」

公演日程:2016年7月9日 (土) ~2016年7月24日 (日)
会場:世田谷パブリックシアター
作:マーティン・シャーマン
翻訳:徐賀世子
演出:森新太郎
出演:佐々木蔵之介 北村有起哉 新納慎也 中島 歩
   小柳 友 石井英明 三輪 学 駒井健介 / 藤木 孝

 

Bent [DVD] [Import]

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